2015年10月26日、神奈川県横須賀市が老朽化で倒壊の恐れがある建築面積約60㎡の空き家を撤去しました。
市役所による撤去は「行政代執行(ぎょうせいだいしっこう)」といい、同年5月に施行された「空き家対策特別措置法」に基づく全国で初めてのケースとして注目されました。今後もこのような行政代執行は増えていくと考えられています。
そもそも、空き家とはいえ、個人や法人の建物である空き家。そのままだと何が問題なのでしょうか。また、建てている人は、なぜそのままにしているのでしょうか。
そこには、いくつかの原因が存在します。まず、今回の問題の一番の要因である、「特定空き家」という言葉をチェックします。
「特定空き家」とは?
今回取り壊されることになったのは、「特定空き家」と判断された建物です。
本来空き家も個人(会社所有などの場合は法人)の所有物のため、市など行政機関が取り壊しの判断をすることはできないのですが、このまま放置しておくと倒壊の危険がある際、行政はさきほどの「空き家対策特別措置法」にもとづき特定空き家の指定をし、取り壊すことができます。
法律によると解体費用は通常所有者負担なのですが、今回は所有者不明のため、約150万円の解体費用については行政が負担しました。
法律による定義を見てみましょう
1、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
2、そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
3、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
4、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
日本で空き家が増えている?
日本では、空き家が増えています。
統計局の調査によると、平成25年の空き家率は820万戸と、総住宅数の13.5%にも達しています。
空き家は今回の特定空き家指定の原因となったように、倒壊の危険があります。また管理が行き届かないことで治安の悪化を誘引し、犯罪や少年非行の懸念も指摘されています。
個人所有のもと目に届かない場所として、大麻や覚せい剤の受け渡し場所になることの危惧もされています。
それでは、なぜ所有者は積極的に空き家を解体しないのでしょうか。それは、空き家を解体すると「デメリットしか存在しない」からです。
空き家を解体するデメリット
所有者が空き家を解体すると、大きくは2つのデメリットが存在します。
順に見ていきましょう。
①解体費用の負担
空き家を解体するのにもお金がかかります。
この解体費用は、所有者が負担しなければなりません。空き家は現在の所有者自身で建築した以外にも、「親などから相続で貰った」ケースも数多く存在します。相続で貰ったはいいけれど、現在の住まいとも遠いし、お金もかかるという理由で、放置しがちになってしまうのですね。
②固定資産税・都市計画税の軽減措置
そして、最も大きな理由と言われているのが、「固定資産税・都市計画税の軽減対象から外れてしまう」という点です。
この2つの税金は所有者の持つ土地に対し課税されます。ただし、その上に建物が建っていた際、土地に対してかかる税金は以下のように軽減されます。
(固定資産税:住宅用地の特例)
①200㎡以下の小規模住宅用地・200㎡を超える住宅用地のうち200㎡までの部分→台帳価格の1/6
②200㎡を超える住宅用地のうち200㎡を超える部分→台帳価格の1/3
(都市計画税:住宅用地の特例)
①200㎡以下の小規模住宅用地・200㎡を超える住宅用地のうち200㎡までの部分→台帳価格の1/3
②200㎡を超える住宅用地のうち200㎡を超える部分→台帳価格の2/3
特定空き家に対する軽減措置撤廃の動き
この固定資産税の軽減措置が空き家解体の阻害要因になっている、という指摘を受けて、平成27年度から「特定空き家」で「指導を受けても改善せず、『勧告』を受けた空き家」について固定資産税・都市計画税の軽減対象から外す、という法律が施行されています。
ただ現在のところ、「特定空き家」はどの機関が決めるのか。
指導と勧告はどのようなものなのか、が決定及び浸透していないため、実際の空き家指定は慎重さが求められる、と言われています。
また、専門家によると毎年1月1日の所有者を持って固定資産税の金額が算出されるため、2016年1月の固定資産税算出が終了してから具体的な特定空き家の定義が発表されるのではと見られています。本格的な施行には、もう少し時間がかかりそうですね。
まとめ
いずれにしても、空き家の管理は行政にとって大きな問題です。
一方、管理者不明の建物を行政が関わることによって、新たな街づくりの推進になるのでは、という意見もあります。今後、災害や治安に強い、「住みやすい街」の実現のため、この法律が有効活用されることを願いたいと思います。