昔は持ち家を持つことがひとつのステータスとなっていましたが、時代の変化とともに価値観や働き方などが多様化し、一生賃貸に住むという人も増えてきました。
購入派か賃貸派かなんて論争がいろいろなところで繰り広げられていますが、マイホームを持ちたいという方もまだまだ多いようです。
ただ、経済環境がなかなか思うように上向きにならないという状況下において、マイホームを検討している人、またはすでに購入した人にとって心配になることが、収入減などによって住宅ローンの支払いができなくなったらどうなるかという点です。
もし、そのような状況になったらどうすればいいか、または、すでにそのような状況になっている場合はどのような対処や解決策を用いればいいのかなどといったことに触れていきたいと思います。
住宅ローンを滞納している人ってどれくらいいるの?
対処法や解決策の話をする前に、実際にどれくらいの人が住宅ローンを滞納しているのかという話をしていきたいと思います。
以下で紹介するデータは民間金融機関が公表しているものではなく、フラット35などを融資している住宅金融支援機構が民間金融機関の開示基準を参考に作成しているものになっています。
ですので、このデータがすべてではないのですが参考にはなるかと思いますので、この点についてはあらかじめご了承ください。
(単位:億円) | 平成18年度 | 平成19年度 | 平成20年度 | 平成21年度 | 平成22年度 | 平成23年度 | 平成24年度 | 平成25年度 | 平成26年度 | 平成27年度 |
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破綻先債権 | 2,647(0.58%) | 3,014(0.71%) | 2,453(0.64%) | 2,256(0.66%) | 1,961(0.61%) | 1,296(0.43%) | 1,113(0.40%) | 966(0.36%) | 842(0.34%) | 783(0.32%) |
延滞債権 | 7,899(1.73%) | 11,335(2.66%) | 9,944(2.58%) | 9,304(2.71%) | 8,108(2.53%) | 6,330(2.10%) | 5,801(2.06%) | 4,595(1.73%) | 3,921(1.57%) | 3,413(1.40%) |
3ヶ月以上延滞債権 | 985(0.22%) | 894(0.21%) | 1,149(0.30%) | 1,605(0.47%) | 1,634(0.51%) | 1,590(0.53%) | 1,469(0.52%) | 1,289(0.49%) | 1,111(0.44%) | 938(0.39%) |
元金残高 | 456,801 | 426,318 | 385,221 | 343,527 | 319,959 | 301,071 | 281,747 | 265,042 | 249,688 | 243,015 |
※参考 住宅金融支援機構 ディスクロージャー誌
上のグラフ表示されている各項目について説明していきます。
まずは「破綻先債権」からみてみましょう。この破綻先債権というのは簡単に言うと、債権の回収が不能な貸出先ということになります。もっとザックリ言えば、家以外に取れるものは何もないよという状態ですね。
このデータは住宅ローンの件数ベースではなく貸出残高ベースになっていますので、何人くらいの人がというところは分かりませんが、住宅ローンの元金残高の約0.4%前後が破綻先債権として取り扱われているということになります。
では次に「延滞債権」ですが、これはもう実質破綻している、またはもう破綻寸前ではないかという状況下にある債権が該当します。
さしずめ「破綻予備軍」といったところでしょうか。
平成21年度に元金残高の2.71%もの金額が破綻寸前になっていましたが、その後は徐々に金額・割合共に減少していき、平成27年度では1.40%になっています。
次の「3ヶ月以上延滞債権」ですが、これは説明がなくてもお分かりいただけると思います。
3ヶ月以上延滞をしているということですから、破綻予備軍の2軍といった位置づけになるでしょうか。イメージとしてはそんな感じですね。
割合的には0.4%程度と延滞債権に比べると低くなっていますが、それでも3ヶ月延滞をしているわけですから、いつ破綻先債権として扱われるかわからないといった状況ではあるというわけです。
これらの項目すべての割合は3%前後となっており、平成21年度をピークに減少していますが、それでも何兆円、何千億円といった金額が支払うことができない状態にあるというのは、かなり深刻な状況であることには違いありません。
住宅ローンを滞納してしまった…これってどうなる?
住宅ローンを滞納して、そのまま放っておくと自宅を差押えられて競売にかけられます。
競売にかけられるというのはイメージできるとは思いますが、競売に至るまでのプロセスはどうなっているのかという点についてはご存じないのではないでしょうか。
ここでは、住宅ローンの返済を滞納したらどうなるかを順を追って説明していきます。借入れをしている銀行によって若干対応が異なることはありますが、概ね以下の流れのようになります。
①銀行からの連絡
1回の滞納であれば、ほとんどの場合、電話などで支払い催告されるといった形になっています。
ただ、これが3ヶ月以上も続くといったようなことになると、もう少し厳しいアクションになってきます。銀行から督促状あるいは催告状といったものが届き、そこには期日までに延滞分にプラスして遅延した分の利息(遅延損害金)をまとめて支払いなさいといった内容が記載されいます。
さらに、期日までに返済しなかった場合は一括弁済や代位弁済の手続きを行なうなどの内容が記載されていることもあります。
②期限の利益喪失・一括弁済に関する通知
①にて延滞分+遅延損害金の支払いがなされなかった場合、「期限の利益の喪失」についての通知があります。
この「期限の利益の喪失」というのは、住宅ローンの場合で説明すると、一般的に決められた期日ごとに借入金を分割して返済するといったような旨が契約書に記載されています。
借入額が2,000万円で金利が1.2%、そして毎月、元金・利息合計して8万円を35年で支払うといったものです。
このように債務を定められた期日によって毎月分割して返済できるという約束のことを「期限の利益」といいます。つまり、この「期限の利益」を喪失するということは残債務を一括で返済しないといけなくなるということになります。
そして、この通知には期限の利益喪失のことだけでなく、指定された期日までに一括で返済(一括弁済)できない場合は保証会社が代位弁済するということも記載されています。
③代位弁済の通知・競売
②の段階で一括弁済できれば問題ないのですが、もしできなかった場合は保証会社が債務者に代わって残債務を銀行へ支払うといったことになります。
このことによって窓口が銀行から保証会社に変わり、債務者への通知が行われます。
代位弁済をして通知が行われてから1ヶ月以内には裁判所に競売の申し立てがなされます。申し立てから1週間くらいで差押登記が行われ、さらに申し立てから3~5週間程度で競売開始決定通知書が届くといった流れになっています。
ここまでが住宅ローンを滞納してから競売開始決定までの流れですが、早い場合だと①~③までが4ヶ月くらいの場合もあります。できれば、そうなる前になにか対処できればいいのですが…
滞納する前に知っておきたいことやっておくべきこと
できれば、住宅ローンの返済を滞納してしまう前に何らかの対処をしておくというのがベストではあります。
ただ、そういった滞納してしまいそうな状況に至る理由というのはさまざまです。ここでは、その理由の一部を取り上げどのように対策を打てばいいかについて説明していくことにします。
月々の返済額が増えたことで滞納してしまった
3年固定や5年固定といった固定期間選択型の金利タイプで借入れした場合、借入当初は特約等で金利が低く設定されているのですが、固定期間が終了すると基準金利からの引下げ幅が少なくなり、結果的には借入金利が上昇するとともに返済額も上がってしまうといったケースです。
借入当初は返済も比較的余裕を持っていたのですが、固定期間中に子どもが生まれたりしたことで収支のバランスが以前とは異なってきてしまい、返済が苦しくなってきたなんてこともあるでしょう。
こういった場合の解決策として考えられるのが、住宅ローンの借換えです。
今の借入先より金利の低い金融機関へ借換えすることで毎月の返済額を下げることが可能になります。
ただ、注意点としては借換えの際に諸経費がかかってしまう点です。現在の借入先から借り入れする際に抵当権を設定していますので、それを抹消しないといけませんし今度は新たな借入先も抵当権を設定しないといけないので、それらにかかる費用が必要になります。
これ以外に印紙代や事務手数料がかかってきます。
そういった諸経費を含めて借換えをするのであれば、借り換え金額は「現状の借入残高+諸経費」となりますので、金利が下がっても返済額があまり変わらなかったということもありえます。
ですので、このあたりに関しては返済シミュレーションなどを利用してしっかり計算するようにしましょう。
そもそも、月々の返済額が高いという人も借換えを検討してみてはいかがでしょうか。
収入が減って滞納をした
収入が減る原因としては、リストラや勤め先の業績悪化、または自営の方なら売上の減少といったことではないでしょうか。
家計を見直してなんとかなる程度ならいいのですが、それくらいではとても追いつかないといった場合に考えられる対策は、現在の借入先へ返済条件の変更をお願いするというものがあります。
これをリスケジュール(リスケ)と言います。
このリスケはどのようなことをするかというと、「返済期間の延長」「一定期間の返済額軽減」「ボーナス払いをやめて毎月の返済に充てる」というようなことです。こうすることで返済額を軽減することができるというわけです。
ただ、このリスケは金融機関に相談すれば誰でもできるというものではありません。
交渉する際には直近の給与明細の提出やリスケをするに至った原因・理由、今後の収入や支払いの見込みといったものが必要になることがあり、それをもとに審査をするという形がほとんどです。
金融機関によっては、リスケで返済期間を延長すれば定年後も住宅ローンの返済しないといけないといった状況になり、返済が滞るなどの可能性を危惧してリスケの交渉自体に応じてくれないというケースもあるようです。
あくまでも、このリスケは将来的に収入が戻る可能性があるといった場合に有効な手段と言えます。それともうひとつ、収入が戻る可能性があるのであれば、一時的に借り入れをするという方法も考えられます。
金融機関によってはリスケをしたことを信用情報に登録するところもあるので、信用情報を汚したくないというのであれば、比較的低金利の銀行カードローンを利用するのもありでしょう。
ただもし、今後収入が戻る見込みが薄いのであれば、売却ということも考えないといけません。
離婚したことが原因で滞納した
離婚したことで住宅ローンの返済を滞納してしまうケースとして考えられるのは2パターンあります。
まず1つ目が離婚後の養育費の支払いが原因で支払いを滞納したというものです。
2つ目のパターンが購入時に収入合算でマイホームを購入したことです。これの何が延滞の原因になるかというと、離婚するまでは2馬力で働いてローン返済していたものが1馬力になってしまうので、こうなるとかなり生活費を圧迫することになってしまいます。
ここで、収入合算時にパートナーを連帯保証人にしたか連帯債務者にしたかによって事情が変わってきます。
どういうことかというと、連帯保証人の場合は主債務者が返済を滞納した場合、連帯保証人であるパートナーへ返済の請求がくるという形になりますが、連帯債務者の場合であれば主債務者と連帯債務者それぞれに同等の返済義務が生じますので延滞すれば両方に返済請求がくるという形になってしまいます。
それに、この連帯保証・連帯債務どちらにしても余程の条件が整わないと解除することが難しいということもあり、離婚が原因で支払いが難しくなりそうなのであればマイホームを売却することも視野に入れて検討しなければいけないということになってしまいます。
病気になったことが原因で滞納した
病気やケガによって収入が減るまたは途絶えてしまったことによって住宅ローンの返済を滞納してしまったというケースです。
これは主債務者が病気やケガになるというパターンですが、パートナーの病気による長期入院などで医療費がかかってしまい返済が困難になるというケースもあります。
「収入が減って滞納した」のところでも書いたのですが、このような状況で収入が戻るまたは増える見込みがあり、一時的に返済が苦しいという場合であれば借入先の金融機関へリスケジュールの相談もできるのですが、そうでない場合は早めに売却の準備をするといった解決策が無難になってきます。
ただ、この病気の内容によっては少し話が変わってきます。
住宅ローンの借入れ条件として必須になってくるのが「団信への加入」です。この団信というのは「団体信用生命保険」の略で、生命保険という名前が付いているのでお分かりかと思うのですが、住宅ローンの契約者に万が一のことがあった場合、ローンの残債が保険から支払われるというものです。
普通の団信であれば「死亡または高度障害」になった場合に保障されるため、ここで説明している内容には当てはまらないのですが、3大疾病や7大疾病、8大疾病に対応した団信に加入していた場合は、死亡・高度障害以外に脳卒中やがん、急性心筋梗塞のほかに糖尿病、慢性腎不全、高血圧症疾患といった病気もカバーしているので、加入している団信によっては住宅ローンの残債が保険から支払われるという可能性もあります。
問題としては、住宅ローンの契約当初に3大疾病や7大疾病といった病気にも対応している団信へ加入していればいいのですが、途中で団信を変更するということができませんので疾病保障付きでない団信に加入していた場合は残念ながら売却を検討しなければいけないという状況になってしまいます。
もし住宅ローンを滞納してしまった場合の対処法
住宅ローンを滞納してしまい、そのまま放置しておくとマイホームを差押えられて競売にかけられるということについてはすでに書いてあるとおりです。
競売になってしまうと自宅に住み続けることはもちろん、普通に売却するよりかなり安く売られるので住宅ローンが残ってしまいます。さらに、その残債は一括で返済が求められることもあるので状況としてはさらに厳しいものになってしまいます。
では、この競売を避けるためにはどのようなことをすればいいかというと、競売にかかる前に自宅を売却するということです。
ただ、不動産屋に行って売却の相談をしてたのでは時間がかかってしまいます。それに、金融機関は返済を請求してきますので、このような普通の売却では結局、競売になってしまいます。
住宅ローンの返済を滞納して、かつ今後支払うことが困難であると判断した場合に有効な手段が「任意売却」です。
この任意売却は、金融機関などの同意を得て自宅を売却するという形になっています。それに、この方法で売却した場合、競売よりも市場価格に近い形で取引きができる可能性が高いということで、債権者である金融機関からしてみれば回収できる債務が増えるといったメリットもあります。
回収できる債務が多くなるということは、住宅ローンの支払者からしてもメリットが出ます。高く売れれば売れるほど住宅ローンの残債が減るので、任意売却後の返済が楽になるという部分においてはメリットと言えます。
しかも、この残債に関しては競売であれば一括で返済を請求されるのですが、任意売却の場合、無理のない範囲で分割返済も可能になっているので住宅ローンの返済が苦しいといった場合でも返済できるように設定することができます。
それと、状況によってはマイホームを売却しても住み続けることも可能です。
これはかなり条件が整わないといけないのですが、購入する人が不動産投資目的だった場合、その投資家との契約次第で家賃を支払えば今までと変わらず住むということができます。さらに、これは稀ですが買い戻すという希望があればそれに対応してくれるといった場合もあります。
ただ、この任意売却にもデメリットがあります。
任意売却は競売で落札される前までに成功させないといけないという時間的な制約があります。もし、落札人が決定してしまえば強制売却となってしまい、その後は強制的に退去させられます。
それに、そもそもの話ですが債権者である金融機関が同意しなければ任意売却の話はなしになります。
こういったこともあるので、任意売却を検討するのであれば住宅ローンの返済が今後厳しくなるかもしれないといった不安が現実になりそうになる前に業者の選定を行った方がいいでしょう。
ここまでは、住宅ローンの返済を滞納した場合のみの話をしてきましたが、もし住宅ローン以外にも借入れをしていて、その返済も滞納しているというのであれば自己破産などの債務整理を検討しないといけません。
当然、こうなると自宅に住み続けるということはできませんが、返済の苦しみから解放されます。