2015年12月1日、世界最大規模の年金基金である「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」は、2015年第2四半期(7月―9月)の運用収益がマイナス7兆8,899億円の大幅な赤字を計上した、と発表しました。
GPIF。聞きなれないことがですが、外国の機関か何かでしょうか。
いや、「独立行政法人」という名前がついています。国の組織に準じた、財政機関でしょうか。そう思った方は多いでしょう。実はこの組織、僕たち日本の国民にとって、とても大事なものを管理しているところです。
GPIFが管理しているもの
GPIFが管理しているのは「公的年金」です。
年金のなかでも、自営業者などが払う国民年金と、会社員が支払う厚生年金の積立金を管理しています。最新の積立金総額は130兆8,846億円(2014年7-9月期時点)と公表されています。アメリカの年金機関についで、世界第2位の年金管理機関といわれています。
ここで、年金制度の特徴である「世代間賦課(ふか)方式」について説明します。
世代間賦課方式とは、現在20歳以上が必ず支払っている(免除制度あり)年金は、現在の高齢者へ支給される年金となっている方式です。
現在の支払っている若者たち(便宜上、20歳以上60歳以下の支払者を『若者』と表記します)の支給分は、将来年金を受け取る時期になったときの、「若者」の支払をもとに支給されます。
これを、自分で支払った分だけ自分で支給を受けるという積立方式と異なり、世代間で扶養する「世代間賦課方式」といいます。日本の年金は昔から、この世代間賦課方式を使っての運用を続けてきました。
現在納められた年金原資。毎年年金保険料として入ってくるお金と、現在の高齢者に対しての年金支給分。この差額を蓄えておく巨大な「年金のお財布」が、GPIFです。
GPIFは投資をする「お財布」
このGPIFは、実は投資をしています。
正確には投資を「委託している」という表現が正しいのですが、将来も継続して安定した年金給付が続くために、国内外の投資ファンドや大手銀行に委託して投資をしています。
僕たちの株式投資と同じく、GPIFも投資収益の結果が公表されます。この投資結果のうち、2015年7-9月期の収益結果が大幅な赤字を計上した、というのが最初記載したニュースです。
僕たちは年金を貰えなくなるのか
このようなニュースを聞くと気になるのは、「現在は年金を支払っているだけの若者は年金を貰えなくなるのではないか」ということです。実際に週刊誌などでも、刺激的な論調で「年金財政の破綻」という書き方をしているところもあります。
今回の損失は「四半期」という一時的な話。
そこまで神経質になることはありません。この時期はマーケット自体が冷え込んでおり、個人で投資した方もあまりいい成績は残せていないようです。ある程度の下落は仕方のないことだとする専門家もいます。
ただ、GPIFが将来の年金資産という、大切なお金を預かっていることには変わりはありません。一つ気になるのは、現在預かった年金資産を無理に運用に回すことなく、家計でいう貯金をして数十年後に備えればいいのにと思う方も多いでしょう。
そこで問題になるのが、「少子高齢化」です。
少子高齢化と年金
現在、日本は子どもが減り、60歳以上の高齢者が増える「少子高齢化」が大きな社会問題となっています。
GPIFが管理する年金財政においてもこの傾向は危惧されており、政府は約15年前のGPIFが現在の組織形態になった時から年金を管理する組織に自主的な運用を求めてきました。
特に現在の安倍政権は「第3の矢成長戦略」の一環として、GPIFによる国内外の株式や債券への積極的な投資を進めています。今年一時的に日経平均株価で2万円台を突破したのは、このGPIFが持つ巨大な資産を株式投資に回したからでは、とする専門家もいます。
今後、少子高齢化は更なる深刻化が懸念されています。GPIFにも積極活用の必要性は引き続き求められると考えられます。
今回のニュースに考えるべきこと
今回のニュースを、どのように受け止めると良いのでしょうか。
大切なのは、「今回の結果に一気一憂しないこと」です。週刊誌などを見ると「年金破綻」とか、「民間の(個人)年金の方がいい」と、根拠に乏しい特集が組まれているものも多いです。
現在年金を納めている若者がもし亡くなったり、ケガをしたりしたとき。公的年金には「遺族年金」や「障害年金」の制度があります。同等の保障を民間保険で加入すると倍の保険料が必要と言われています。
既にご説明したようにマーケットが冷えている時期の結果。今後どのように戻していくのかを注視することが大切です。このようなニュースを読むときは特に、「金融リテラシー」を意識したいものですね。